FRAILTY PREVENTION CONSORTIUM

日本、そして世界中の高齢者に役立つ仕組みを。
電力データ✕データサイエンスの挑戦

NEWS 2021.7.30

写真右 木全英彰
合同会社ネコリコ 代表社員職務執行者

1996年中部電力入社。入社以来24年間、中部電力の業務に従事。電力設備の建設・保守、人事部署、グループ会社経営管理部署、2019年事業創造本部を経て、2020年4月より現職。趣味は釣り。

写真左 金岐俊(Kim Kijun)
株式会社JDSC データサイエンティスト

東京大学にて Applied Computer Science 修士号取得。同大学院の博士課程在籍中。2018年より株式会社JDSCに参画し、小売・物流・ヘルスケア・製造業界におけるDX推進を経験。趣味はサッカー。

見えなかったものを、見える化する

―まず初めに、合同会社ネコリコが、電力データからフレイル判定を行う実証実験に取り組んだ理由を教えてください。

木全 英彰氏(以下、木全):
当社は、暮らしを便利で快適にするIoTプラットフォームの提供を目的に、中部電力とインターネットイニシアティブ株式会社の合弁によって立ち上げられました。具体的には、利便性を高めるホームIoT機器を提供するだけではなく、そこから得られるデータを活用して “これまでわからなかったことをわかるようにする”サービス開発に取り組んでいます。そんな中で電力使用データをはじめとする各種データを、AIを活用して解析すれば、フレイルを早い段階で検知できる可能性があると知り、JDSCと共同で実証実験に取り組む運びとなったのです。

―JDSC、そしてデータサイエンティストとしては今回の取り組みに何を期待されたのでしょうか。

金 岐俊氏(以下、金):
超高齢化社会・日本にとって喫緊の課題、フレイル解消に取り組むネコリコの姿勢に、何よりも強い共感を覚えましたね。「できるかまだ確証はないけど、世界初のチャレンジをしよう」と言っていただけたんです。今回の実証実験では、2020年から順次全国導入が予定されているスマートメーターを使うため、今後の社会実装の可能性も高く、有意義で実用的な研究になると期待しました。

実用化を視野に入れ、コスト削減にも目配り

―金氏が所属する東京大学の越塚研究室では、以前からもスマートメーター含めライフラインデータ活用に取り組まれていたのですね。

金:
研究室ではIoTに関する各種データ研究を行ってきたので、これまでの研究成果をフレイル検知にも活かせると考えました。フレイル検知は世界的な課題となっているため、身体装着型をはじめとするさまざまなセンサデバイスを活用した研究が行われています。今回我々が採用したシステムの大きな特長は、被験者である高齢者に身体的な負担を一切かけないこと。高齢者はデバイスなどを自身の身体に装着するや屋内に複数個のセンサを設置する必要がなく、普段どおりに生活しているだけで的確にデータ収集できるシステムとなっています。

木全:
これまでとまったく変わらない生活をしてもらいながら、必要なデータを的確に採取できるかどうかが、実証実験の重要なポイントです。フレイル検知は医療・介護費抑制の観点から、全国の自治体にとっての重要課題となっています。国からの期待もすごく大きい。我々としては今回の実験で成果を得られれば、このシステムを幅広く展開していく予定なので、普及を図るにはコスト抑制が欠かせません。データはたくさんあるに越したことはない。しかしながら、いかに少ない情報から検知できるかが課題だと思っていました。その点、実証実験でスマートメーターだけでも正確に検知できる確証を得られたのは、大きな成果ですね。

コロナ感染をケアしながらのモニター募集、実証実験

―普段どおりに生活してもらうだけで良い、というのであればモニター募集もやりやすかったのではないでしょうか。

木全:
当初はそう考えていたのですが、思わぬコロナ禍での実証実験となり非常に苦労させられました。まず、人をオフラインで集められない。モニターの募集数は35名を目標とし、説明会を開催する予定だったのですができなくなったのです。そのような中、三重県東員町様に非常にご尽力いただき、ご自宅まで個別訪問して協力者を募っていただきました。また、モニター様宅にデータを取得するための機器を設置するにあたっても、東京から我々のスタッフが移動するためのケアが必要でした。まずスタッフが三重県に入り、現地に2週間滞在して無感染を確認した後に、モニター候補の方を個別訪問して設置にお伺いしました。訪問設置時の滞在時間を短くするためにできる限りの作業は東京で事前に行っていました。未知のウイルスとも戦いながらのチャレンジは非常に骨が折れましたね。そのような状況下においても、わずか2カ月の遅れで実証開始ができたことは、産官学が連携して適切に対応できたことが大きいと思っています。東員町様には非常に感謝しております。また、訪問設置時には、モニター様からもこの実証に非常に期待を寄せているお言葉をいただき、私たちとしても「良い成果を得て早く社会実装したい」とやる気が湧いたのを覚えています。

金:
モニターの方のアンケートを見たりお話を聞いていると、「早く日本中で使えるようにしたいね」という言葉もいただいて…。身が引き締まりました。

―結果的には研究に必要なだけのデータは集められたのですね。

金:
24名の方が参加してくださり、各戸に複数のセンサを設置してもらったのでデータ量に不足はありません。機器設置はネコリコのスタッフによって行われ、万が一のトラブル時には東員町の担当の方が現地を訪問して対応してくださいました。おかげでデータの量・質ともに納得できるレベルが担保され、世界初となる成果を論文にまとめているところです。

超高齢化社会・日本での成功事例を世界に

―今回の実証実験での成果を元に『フレイル対策コンソーシアム』を立ち上げると伺いました。

木全:
繰り返しになりますが、フレイル対策は超高齢化が進むこれからの日本にとって、座視できない社会課題です。フレイル検知だけでなく予防・改善までの仕組みをコストも含めて持続可能なモデルとして構築し、社会実装していくのが我々の役目です。ただ見守るだけではダメなんです。いつまでも高齢者を元気にするサービスを提供していきたい。フレイル検知を鍵として、早期に改善を図ることができる包括的なケアを実現するためには、産官学の垣根を超えた連携が必要と考え、JDSCはじめ東京大学、三重大学、三重県との連携によるコンソーシアムの立ち上げに至りました。

金:
今回の実証実験からは、極めて有意義な成果を得られました。コンソーシアムを通じて今後は、例えば電力使用パターンの季節変動や地域による違いなども検討していきます。日本ではもちろんのことですが、スマートメーターはこれから、世界中で採用される予定です。今回の成果を活用すれば、世界中の高齢者に役立つ仕組みを提供できます。私の祖国・韓国も日本に次ぐ勢いで高齢化が進行中なので、少しでも早く韓国でも活用したいというのが個人的な想いとしてはありますね。